私にはこの季節にどうしても撮りたい桜がある。
ここに初めて行ったのは去年の3月下旬だった。
駅の東口から少し歩くと桜並木が見えてくる。
そのときちょうどチン電が通りかかった。
「あっ、チン電が空を飛んでいる」、そう思った。
チン電が桜並木の上を横に移動していくため、空を飛んでいるように見えるのだ。
おとといの日曜日ときょうの2日、この場所に行ってチン電が通るのを待った。

きょう撮った「空飛ぶチン電」。ラッキーなことに、レトロな「162」がやって来た。写真だと動きが感じられないので、飛んでいるようには見えないかもしれない

おとといの空飛ぶチン電
2度も同じ場所に行った理由は、おとといの桜が満開というにはほんの少し早いと思われたこと、重要な機材を1つ持参し忘れたこと、そしてもう1つあった。
おとといの朝、撮影をしようと三脚を立てたところで、写真愛好者と思われる1人の若者が声をかけてきた。
「どういうふうに撮るんですか」
「桜の上を走るチン電を狙っているんですが」
「それはいいですね」
そんなやり取りのあと、若者は私と並んで撮り始めた。
チン電はそう頻繁に来るわけではなく、いろいろと話が弾んだ。
「はい、運転士をしています」
え~! 阪堺電車の運転士に会えるとは。
その後も、「マニアの人が電車を撮っているのが見えると、運行時間に支障がないときは、たくさん撮ってもらえるようにゆっくり走るんですよ」とか「電車は形式ごとというより、1両ごとに個性があって、運転の仕方も微妙に違うんですよ」といった運転士ならではの話を聞かせてくれた。
これは穏やかな話じゃない。
今年撮らないと永遠に撮れなくなる桜並木、何としてもベストな状態で撮りたかった。
きょうの写真はその願いがかなった1枚となった。

南海電鉄の線路をまたぐ橋を渡るチン電と桜(おととい撮影)
