チン電と桜を絡めて撮れる絶好のスポットだったが、今春の花見シーズンを前に桜の木がすべて切り倒されてしまった。
南海電鉄の線路の高架工事に伴い、阪堺電車の線路を付け替えるための処置だと聞いた。
しかし、工事はいっこうに始まる気配がなかった。
3週間ほど前、通勤の電車の中から何気なく外を見たら、工事の黄色いフェンスがずらっと並んでいた。
「ついに始まったのか」と思った。
先週の土曜日にフライング気味に朝のチン電を撮りに行ったのは、その工事の現場を撮りたいと思ったからでもあった。
三脚を最大限伸ばし、脚立の上に立って撮っていると、散歩中の男性から声を掛けられた。
「ずいぶん長い間撮っておられるんでしょうね」
「いや、それほどでもないんですが、ここにあった桜並木が好きでね」
「そうですな。きれいでしたね」
「それがなくなって残念で仕方ないんですよ。ここで撮っても写真としては面白みがないんですが、記録ですからね」
まさにそんな気持ちを抱えての撮影だった。