駅で写真を撮っていると、サリーマン風の男性が何人も集まってきた。
通常の電車に乗る様子もないので、もしやと思い待っていた。
案の定、電車を貸し切っているグループだった。
やがてやって来たのは「162」と書かれた電車だった。
この電車は「モ161形」と呼ばれる車両で、導入されたのは1928年だ。
今年で90歳を迎えたことになり、定期運行される電車としては日本最古という貴重な存在だ。
161形は定期運行されているとはいっても、遭遇することはめったにない。
ラッキーだった。
そして、この162を撮っているとき、中学生とおぼしき1人の少年と出会った。
電車を前から撮ろうと回り込んだとき、背後から声がかかった。
「全体を撮りたいんで下がってもらえますか」
その少年だった。
指示に従うしかない。
彼の使っている三脚は、とても中学生のものとは思えないほど使い込まれていた。
むむ、おぬしできるな。
「あっ、全体が撮れたんで前に出てもいいですよ」
「あっ、また別の電車が来たので、下がってください」
おいおい、お前のじいさんのような年のおっさんに、そこまでずけずけ言うか。
まあ、いいだろう。
そして、162が行ったあと少年に聞いた。
「162が来ることを知ってたの」
「はい」
「でも、運行時間はネットにも出てないし、阪堺電車に電話しても教えてくれないって聞いたけど」
「我孫子道の車庫から出るのを見てから来たんです」
「えっ、どういうこと」
「車庫の近くに住んでいるんで、電車を見てから自転車を飛ばせば間に合うんです」
なんてこった。
電車が走るのを見て自転車で追い越してくるやつがいるのか。
この少年のこだわりは半端じゃない。
年上の人にずけずけものを言うのもなかなか根性がすわっている。
いや、頼もしい少年がいたものだ。
日本の将来もそう暗くはないな。
恵美須町駅のホーム
「162」の脇で記念撮影するグループ
発車間際の「162」