私の部屋から地下鉄の動物園前駅へ行く途中に、「こんな建物がまだ残っているんだ」と思うような旅館がある。
その名は「明楽」。
すでに旅館としての営業は終えているようだが、できることなら一晩でもいいから泊まりたいと思うたたずまいだ。
そして、旅館の隣には「てんのじ村記念碑」が立っている。
調べてみると、てんのじ村と呼ばれたこの一角は、かつて長屋が並ぶ街だった。
そこに昭和の初めごろから芸人が住み始め、終戦のころまで多くの芸人でにぎわった。
ミヤコ蝶々、海原お浜・小浜といった全国的な有名芸人も、ここで暮らしたことがあるという。
記念碑の題字は漫才の父と称される秋田實の筆によるものだ。
身近で何気ない場所に驚くような物語がある。
西成の奥深さの一端に触れたような気がした。