「青春18きっぷ」を使ったJR和歌山線の旅、船戸駅から電車に乗って、次の目的地である「名手(なて)駅」へ向かった。
地図で調べたところ、この駅の北側は昔の宿場町で、古い街並みが残っているように見えた。
ところが…。
駅の周辺は新しい住宅ばかりで、特徴を探すのが難しいような街並みだった。
結局、見るべきは宿場町の旧本陣とその周辺しかなかった。
旧本陣。
歴史と風格を感じさせる建物だ。
ここは有吉佐和子の小説『華岡青洲の妻』で、青洲の妻の実家とされたところだ。
しかし…。
私が建物の中に入ってしばらくすると、管理に当たっているおばあさんがやって来て、「ようお越し。ゆっくりしていってや」と言った。
私が青洲の妻との関連を聞くと「あれは有吉さんのフィクションでね。今では観光のパンフレットでも実家になっとるけどね」と説明してくれた。
歴史もその時代に都合のいいようにねじ曲げられるものだなと思いながら話を聞いた。
それはさておき、おばあさんに「どうぞ部屋に上がって見ていって」と言われ、「えっ、いいの」と思いながらも、かつて大名が泊まった部屋を間近に見させてもらった。
まずは最も身分の高い人が泊まった「御座の間」から。
御座の間に続いて「御次の間」「御三の間」が連なっている。
身分制度の厳しさがしのばれる。
本陣の経営者である妹背家が居住する部屋も立派なものだ。
有吉佐和子が青洲の妻の実家とした気持ちもわからないではない。
大名も眺めたであろう庭も、なかなかのものだ。
旧本陣に近い通りは、かつての大和街道で、今も一部にその面影が残っている。
通りの一角に洋風の建物があった。
郵便局として使われていたようだが、もともとは何だったんだろう。