きのうの仕事帰り、西成に着いてから中村食堂への道を歩いた。
猫の親子がいるアパートをちょっとのぞいて道に戻ると、一人のおばあさんが道端のフェンスの根元に座っていた。
「にいちゃん、ちょっと頼みがあるんやけど」
「何でしょうか。私でできることなら」
「そこに自販機があるやろ。そこでジュースを1本買うてほしいんや。お金を渡すから。にいちゃんの分も買いいや」
「そんなんええですよ。1本だけ買うから」
「あかん、あかん。にいちゃんのも買わなあかん」
そんなやり取りをした。
自販機はおばあさんが座っている場所から4メートルほどしか離れていない。
おばあさんは財布を開いたが、1万円札や5000円札は入っているのに、自販機で使える小銭がなかった。
エリアがエリアだけに、私をだまそうとしているのかと、ちらっと疑った。
まあ行き掛かり上、おばあさんにジュースの1本くらいごちそうしてもいいと思っていた。
そのとき、私の財布の中に1000円札が何枚もあることに気付いた。
土日の生活費をコンビニのATMで引き出したばかりだった。
「5000円札を1000円札5枚に替えようか」
「そら助かるわ」
で、おばあさんから1000円札を1枚預かり、言われるままに90円のジュースを1本と50円の私のココアを1本買った。
「ありがとな。年を取って自販機で物を買うのもままならんようになった。困ったもんや」
「何言うとるんや。まだまだ元気そうやないか。それじゃ、これから飲みに行かなあかんので」
「このご時世、どこで飲むんや」
「そら内緒や」
へたな関西弁が自然に出てきて、おばあさんと言葉を交わして別れた。
いやはや、ちょっと不思議な出来事だった。
これも西成ならではの体験か…。