駅前の食堂で高倉健を気取る

きのう、「青のシンフォニー」の撮影の途中で寄った食堂

きのう、吉野川に架かる近鉄吉野線の鉄橋で特急「青のシンフォニー」を撮ったあと、最寄り駅の大和上市駅に戻った。

その途中で、なんともひなびた食堂を見かけた。

とっさに「この駅前の食堂なら、高倉健を気取れるぞ」と思った。

 

頭に浮かんだのは、山田洋次監督の代表作である『幸福の黄色いハンカチ』のあるシーンだった。

主人公を演じる高倉健が網走刑務所を出所して、網走駅前の食堂に寄り、「しょうゆラーメンとかつ丼ください。それとビールも」と注文する。

そのビールとラーメンを高倉健は実にうまそうに飲んで食べる。

映画を見てから30年ほど経過したとき、何気なくネットでこの映画のことを調べ、高倉健がこのシーンのために2日間絶食したことを知った。

「一流ってのは、こういうことなんだな」と思った。

 

大和上市駅前の「ひかり食堂」を一目見て、そのシーンをまねて、高倉健を気取りたくなった。

店内もひなびた雰囲気で、「こんな店は、地方の小さな町にあってこそ絵になるな」と思った

酒は当然、「ビール」(税込み500円)を注文した。高倉健をまねてグラスを両手で包むようにして持って飲んだ

料理は「しょうゆラーメンとかつ丼ください」と言って注文したかった。しかし、ラーメンは「中華そば」で、かつ丼はメニューになく、「木の葉丼」で代用した

「中華そば」(税込み600円)は、専門店のようなこだわりはなく、食堂らしい素直な味だった。キャベツがたくさん入り、かまぼこが載っているのが、家でも簡単に作れそうで親しみが湧く

「木の葉丼」(税込み650円)はキノコがたくさん入っているということで、このエリアらしいなと思って注文した。甘い味付けで、疲れが癒やされ、さあ午後も頑張るぞと思った

で、ひなびた食堂での物語は終わりだと思ったら大間違い。

店を切り盛りしているおばあさんと話をして驚いた。

店は創業80年で、おばあさんで3代目だという。

息子さんが跡を継いでいるので、店は創業100年の節目を迎えられるだろう。

きのうは店の前に行列ができるほどの盛況だったそうで、私が入ったときはたまたま客がおらず、おばあさんに「いいときに来られましたね」と言われた。

 

そんなことより、この店は『幸福の黄色いハンカチ』と同じ山田洋次監督のさらなる代表作である『男はつらいよ』のロケ地として使われたという。

おばあさんは「渥美清さんは本当に優しい人でね」と言っていた。

家に帰ってから調べたところ、吉野を舞台にしたのは1987(昭和62)年12月に封切られた第39作『男はつらいよ次郎物語』で、マドンナの秋吉久美子が寅さんたちを見送るシーンが大和上市駅で撮影されている。

 

さらに和歌山市出身の作家・有吉佐和子さんもここで食事をしたことがあるという。

おばあさんは「有吉さんはこの店に来たことをある人に聞かれ、『あの店ね。よく覚えているわよ。店の人が温かくてね』と言ってくれたそうですよ」と懐かしそうに話した。

 

私もこの店を見て高倉健を気取りたくなったのがちょっと不思議だったが、そんなエピソードを持つ店がそうさせたのかもしれない。