私は大学時代に山岳部に所属し、冬山にも毎年登った。
冬山で悪天に遭遇すると、テントの中で耐えるしかなくなる。
耐えるとはいっても、状況がそれほど厳しくない日は、寝袋の中で惰眠をむさぼれる楽しい日ではあるのだが。
そんな日の昼食のため、永谷園の「お好み焼きの素」を用意していた。
しかし、それで通常のお好み焼きを作っても大した量にはならないし、調理もけっこう面倒だ。
そこで私の同期の部員が「これを水に溶いて、みそ汁の中に入れれば『すいとん』になりますよ」と提案し、みんなで作ってみた。
それが意外なほどうまく、腹もかなり満たされた。
すいとんは戦中・戦後の食糧難の時代の食べ物で、私が学生だったころでも、食べる人はほぼ皆無だった。
そんな料理に冬の山の中で出合おうとは。
それ以降、すいとんは冬山の定番料理になった。
きょうの昼、そんな思い出のあるすいとんを作ることにした。
ところが、なんでもないはずの「山岳部流すいとん」に思わぬ落とし穴があった。