「水の都にすてた 恋 … あゝ ここは大阪 中の島ブルースよ」
1975年に内山田洋とクールファイブが歌ってヒットした「中の島ブルース」の2番の歌詞だ。
この曲では1番が札幌、2番が大阪、3番が長崎の中の島を歌っている。
きのうは新しい職場に移って初めての土曜出勤の日だった。
仕事が終わって時間ができ、「さて、何をしようか」と大通りに出て南を見たら、橋が見えた。
職場は大阪のビジネスの中心である中之島に近い。
「中の島ブルース」にある「中の島」は札幌だけで、大阪は「中之島」、長崎に至っては島ではなく「中島川」が舞台になっている。
何度も車で通った中之島を初めて自分の足で歩いてみた。
「中の島ブルース」には、強烈な思い出がある。
私は大学を出てふるさとである岡山の会社に就職し、1年半後に東京支社に異動になった。
そのときの上司の十八番がこの曲だった。
まあこれほど下手な人も珍しいというほどの歌だったが、一杯飲むと必ずカラオケを歌った。
ある日、その上司と新宿の歌舞伎町にある小さなスナックに行った。
午前2時を過ぎていて、客は上司と私の2人だけだった。
そこにどう見ても堅気じゃない3人組が入ってきた。
その中の親玉とおぼしき男性が「中の島ブルース」を歌い始めたそのとき…。
あろうことか上司が「俺にも歌わせろ」と言って、その親玉からマイクを取り上げた。
親玉の脇を固めていた2人の若い衆がすぐに立ち上がり、「何すんだ。この野郎」と上司を力ずくで押し倒した。
それを見た親玉が「騒ぐな。ほかの人に迷惑をかけるんじゃねえ」と2人をしかりつけ、事はすぐに収まった。
私はそれを傍らでオロオロしながら見ていた。
その後、上司がどうするか見ていると、すぐに立ち上がり、「いや、失礼しました。私はこういうもんです」と名刺を差し出し、親玉も自分の名刺を出した。
上司のしたたかさも相当なものだった。
上司が名刺を出して私が出さないわけにはいかず、私も名刺を交換した。
もらった名刺は厚い和紙でできた立派なもので、「○○組 組長」の肩書きがあった。
後にも先にもそっちの人と知り合いになったのはこのときだけだ。
その上司とはもう15年以上会っていない。
どうしているのか風の便りも届かないが、健康には自信のある人だったので、今も元気で時々「中の島ブルース」を歌っていることだろう。