中崎町の通りを歩いていると、たまに猫に出くわすことがある。
といっても本物の猫ではなく、置物だ。
店の前は招き猫、一般の住宅の前は奇っ怪な猫が多い。
大きいものでも高さ50センチほどだが、街の片隅でけっこうな存在感を放っている。
猫といえば、数年前、高校時代に読んだ夏目漱石の『吾輩は猫である』を読み返した。
40年余りの時を経て、私の感性や考え方も大きく変わったのか、初めて読んだときと印象はかなり違っていた。
変わらなかったのは「この小説の語り手は猫だからいいんだな。犬じゃこうはいかないな」という思いだった
猫は人を冷静、冷徹に見ているようなところがあり、すぐに尻尾を振ってくる犬とは大違いだ。
小説のタイトルも「吾輩は犬である」では、どこかの回し者の話になってしまう。
中崎町の猫の置物も「吾輩も猫である」とばかりに、行き交う人を見ているような気がする。