「西成だから」では済まされない現実

きょうの仕事帰りに、夕日に照らされる上町断層の階段を撮った。よく見ると、写真の右下におっちゃんが倒れていて、真ん中左の若者が階段を上っている

きょうは仕事が終わってから真っすぐ帰った。

夕日に照らされる上町断層が、このところずっと気になっていて、それを撮ろうと思っていた。

撮影ポイントとして想定していたのは、中村食堂の東にある階段だった。

そこに向かう道で、高速道路の高架下を過ぎると、1人のおっちゃんの近くに2人の警察官が立っていた。

おっちゃんは泥酔していて、警察官に諭されている様子だった。

「ここは西成だもんな。こんなおっちゃんの巣窟のような場所だから」と思い、そのまま通り過ぎた。

 

予定していたポイントに着き、カメラを構えたところで、1人の若者が私の脇を通り過ぎて階段を上り始めた。

そのあと、さっきのおっちゃんが私にぶつかる寸前ですり抜けた。

「酔っ払い込みで撮るか」と思い、カメラを構え直したら、おっちゃんが階段の手前に置かれていた自転車にぶつかって倒れた。

私は2回だけシャッターを押して、おっちゃんのところに行った。

 

おっちゃんの倒れ方からして大ごとだとは思えず、意識もあったが、放っておくわけにはいかなかった。

おっちゃんは頭を打っていて、わずかながら出血しているようだった。

自転車と絡み合うような形で倒れていたので、それだけでも振りほどこうとしたが、おっちゃんはまったく動かなかった。

 

そうこうするうちに、先に通り過ぎた若者が下りてきた。

おっちゃんの様子を見て、「頭を打っていますね。救急車を呼びましょうか」と言い、てきぱきと対応した。

ひとしきり電話で連絡したあと、「私は西成警察署の警察官です」と言った。

驚いた。

こんなにタイミングよく「プロ」が近くにいるものかと。

その警察官は勤務を終えて帰るところだったようで、「あとは任せてください」と言って、私の名前と連絡先を聞いた。

私もプロの前で出しゃばることはないと思い、その場を立ち去った。

時刻は6時15分ごろだったと思う。

 

これで一件落着と思い、すぐ近くの中村食堂で一杯やった。

いつものように飲んで食べて、7時すぎに店を出た。

 

倒れたおっちゃんが気になって、現場に行ってみた。

一件は落着していなかった。

おっちゃんは倒れたときとそれほど変わらない格好で横たわっていた。

傍らで制服を着た1人の警察官がおっちゃんを見ていた。

別の2人の警察官も応援にやって来た。

しかし救急車は来ない。

すぐに立ち去ることもできず、30分ほど現場の周辺をうろうろしていたが、救急車のサイレンが遠くで聞こえるものの、ここに来る車はなかった。

 

最近の新型コロナウイルス感染者急増で、救急車が回らない状況が続いているとニュースで言っていた。

恐らく、酔っ払いと聞いた救急の担当者が、優先順位を低くしたのだろう。

おっちゃんはたぶんただの酔っ払いで、あすの朝になればけろっとしていることだろう。

しかし、深刻な患者やけが人だったらとっくにあの世に行っている。

「西成だから」では済まされない現実を目の当たりにしたような気がする。