今年は8月中旬からぐずついた天気の日が多く、私の勤務先のマンションに植えられている木の根元はじめじめしている。
そうした場所はキノコの生育に適しているようで、名前のわからないキノコが所々に生えている。
先日見つけたキノコをじっくりと見たら、けっこう仲良く並んでいるように見え、まるでキノコの家族のようだった。
キノコの写真を撮っていて、若かりしころを思い出した。
私は北アルプスの上高地にある山小屋でアルバイトをしたことがある。
20代前半の学生時代だ。
その山小屋の経営者は同じ大学の先輩だった。
先輩のおかあさんがキノコ採りの達人で、籠を背負って山に分け入り、ひと抱えはあろうかというほど大量のキノコを採って帰った。
先輩は「食べられるキノコと食べられないキノコを見分けるのは至難の業だ。俺なんかじゃとてもできないよ」と言っていた。
おかあさんがキノコを採ってきた日の夜は、キノコ汁が食卓に上った。
これが絶品で、そのうまさは今も鮮明に覚えている。
あれから40年近い時が経ち、キノコ採りの達人のおかあさんも亡くなっている可能性が高い。
存命だとしても山に分け入ることはできないだろう。
あのキノコ汁をもう味わえないのかと思うと、妙に寂しくなった。