私が勤めている中崎町の会社の近くに、印象的な顔をした猫がいる。
その顔は歌舞伎役者の化粧である「隈取り(くまどり)」を思わせる。
私はその猫を「クマ」と呼んでいる。
私は出勤日の昼休みに会社の周辺をひと回りして猫を探す。
最もよく見かけるのがクマだ。
昼の12時ちょっとすぎに私が通りかかると、クマはたいてい餌を食べている。
食べ終わると近くで少しくつろぎ、場合によっては近くの公園で用を足す。
最後は少し離れた古いアパートに入って姿を消す。
時間はまるで腕時計をしているかのように正確だ。
時々、「あんたの昼休みの予定に合わせてやってるんだよ。めしを食う時間も必要だろ」と言われているような気がする。
ところが、クマの姿を最近見ていない。
1週間ほど前に見たとき、少し痩せてやつれているように見え、「大丈夫か」と声を掛けた。
クマはどうしているのだろう。