上海蟹の聖地・陽澄湖の蟹はそのほとんどが養殖されたものだ。
それでも、数は少なくなったとはいえ、湖に舟を浮かべ蟹の漁をする人もいる。
2010年に陽澄湖を訪ねたとき、1人の女性漁師・丁風霞さんに出会い、舟に乗せてもらった。
陽澄湖の湖沼群の一角をなす東陽澄湖、丁さんはそこで昔ながらの手こぎ舟を操り、上海蟹の漁をして暮らしていた。
丁さんの朝は早い。
風の具合によって変わるが、遅くとも午前7時すぎ、早い日にはまだ夜の明けない午前4時に湖に出る。
上海蟹の漁は朝のうちに網を湖底に沈め、夜になって引き揚げる。
北西の風の日が漁に適しており、そんな日は70匹から80匹の蟹が捕れることもあるという。
風向きの悪い日はそれが十数匹にまで減る。
運がいい日には、日本で高級食材の1つとなっているスッポンが網に掛かることもある。
このエリアの名物料理にもなるエビやタニシの漁もする。
丁さんの暮らしは湖の恵みとともにある。
丁さんが上海蟹の漁を始めたのは1990年代の中ごろのことだ。
それまで勤めていた衣料品関係の会社を辞め、舟を買ってこの仕事を始めた。
「会社勤めは性に合わないのよ。この仕事は自由でしょ。人に管理されていたころ感じたストレスも、この仕事にはないわ」と、丁さんは笑顔で語った。
そんな丁風霞さんは、今も元気に陽澄湖で漁を続けていることだろう。