2匹の子猫の物語

きょうは隔週の土曜出勤の日だった。

午後3時すぎに仕事を終え、日本有数の「遊郭」である西成区飛田新地へ向かった。

明るいうちから事に及ぼうとしたわけではなく、あの辺りで猫を探したいと思っていた。

 

行ってみると、飛田新地の北の昔ながらの住宅街で、何匹かの猫を見かけた。

ある家の玄関先にいた2匹の子猫が印象に残った。

 

その後、飛田新地を歩きながら猫を探したが、いるのは笑顔を振りまいて私の心を惑わす怪しげな猫ばかりだった。

 

あきらめて住宅街に戻り、小さな公園の前を通りかかったら、少し前に見た子猫がいた。

「あれっ、おまえたちは飼い猫じゃなかったのか」と思いながら近づいたところ、人を恐れることはなく、頭や喉をなでてやることができた。

 

そのうちに公園の隣の小さなアパートに住むおじさんが出てきて、2匹の猫にハムを与えた。

その人がこんな話を聞かせてくれた。

「この2匹の猫は、そうやなあ、1カ月くらい前やったかな。公園の片隅に捨てられて、じっとしてたんや。弱っていて、ほっといたら死ぬとこやった。見るに見かねて、俺が餌をやったら食べてくれた。それからずっと餌をやっとる。たぶん飼い猫の子どもやで。野良猫の子やったら、親が簡単に放り出したりせえへん。飼い猫の子やから、誰かが世話せんと生きられへんねん。この1カ月ほどで随分大きゅうなった。これならもう大丈夫やろ」

 

話を聞いているうちに、近所の人が何人も集まってきて、猫の話を始めた。

子猫はちょっとした人気者になっているようだ。

いい話を聞き、いいものを見たような気がした。

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ある家の玄関先にいた2匹の子猫。このときは私を警戒して、すぐに逃げられる態勢をとっていた。ほかにも数匹の猫がいた。この家は猫を飼っているわけではなく、野良猫に寛容なだけらしい

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トラ模様の子猫。こちらのほうが元気がよかった

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黒の子猫。きょうは体調が悪かったのか、何度も吐いていた。餌を与えたおじさんに聞くと、「大丈夫、問題ないよ」と言っていた

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与えられたハムを頭を突き合わせるようにして食べる2匹の子猫。それほど腹が減っていなかったのか、半分近く残していた